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9632 スバル興業 調査詳細

本記事はとても長いため、スバル興業にあまり興味がない方は要約ページをご覧になることをお勧めしています。


以下が調査結果詳細です。

事業内容

概要

スバル興業は道路のメンテナンスを主な事業としています。祖業は映画興行ですが現時点では撤退しています。同社の事業は「道路」「レジャー」「不動産」の3つのセグメントに分類できます。それぞれ以下の表の内容です。

セグメント 事業内容
道路 道路及び道路附属設備の維持・清掃、補修工事
レジャー 飲食店の運営、東京都夢の島マリーナ・浦安マリーナの運営、銘水等の物品販売、高速道路売店向けの商品販売
不動産 吉祥寺スバルビルその他の所有不動産の賃貸

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同社の事業内容については社史が詳しいです。よくできているので是非読んでみてください。同社のホームページに社史へのリンクがあります。

 

以下は2021-3期のセグメント別の売上および利益構成です。

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道路事業が9割程度の売上と利益を稼いでいます。スバル興業は完全に道路の会社だと思ったらよいです。

事業の特徴

同社は道路の維持管理と修繕で利益の大部分を稼いでいるため、ここでは道路事業について考えます。

以下は同社の道路事業の事業所及び業務内容の抜粋です。

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スバル興業社史 p67より表の一部を抜粋



道路事業の業務には以下の特徴があります。

  • 高度な技術が要求されない掃除、除雪、巡回といった業務が多い
  • 掃除や巡回、修繕は恒常的な業務である
  • 公共投資の影響を受ける


まず、掃除や除雪・巡回、修繕などの維持管理業務は差別化が難しいため、価格競争になりやすいです。したがってどのように同業他社よりも生産性を高めるのか、コストを削減できるのかが重要です。もちろん、顧客との信頼関係・作業品質も重要ですが、それは前提です。


次に掃除や除雪・巡回、修繕といった業務は恒常的に発生する業務であり、道路の新設・更新と比較すると売上は安定しやすいと考えられます。


さらに、道路の維持管理は公共投資の影響を非常に強く受けるため国の方針に注意する必要があります。現時点では道路インフラの維持管理に重点が置かれており、当面は維持管理費が削減されることはないと思われます。ただし、限られた予算で多くの道路インフラを手当てしなければならない都合から工事単価が下がっていくといった可能は十分に考えられます。


競争環境についての情報は少ないですが、日経クロステックの記事では「道路の維持管理の受注は建設会社は二の足を踏みがちで、多くの案件で同一企業による1者入札で連続受注となっている」といった趣旨の記載があり、競争環境は悪くないのかもしれません。ただ、景気が悪化し建設関係の仕事がなくなった場合に入札競争が激化する可能性はありそうですが。わたしは競争環境は悪くないのかもしれないが実際のところはわからないと保守的に評価しています。


現時点で道路事業の事業環境は悪くありません。道路の維持管理費は増加しており(後述)、国は予防措置によって道路の長寿命化を図ろうとしているため、維持管理費が減少することは当面ないと考えられます。しかし、道路の維持管理業務は差別化が難しく、価格が重視されるため、生産性の向上やコスト削減に努めていく必要があります。

国土交通省 道路関係予算

以下は国土交通省の道路関係予算および直轄事業費中の維持管理費の推移です。直轄事業費中の維持管理費は全体の維持管理費とは異なりますがおおよその目安とはなるはずです。

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国土交通省 道路関係予算よりグラフを作成


道路関係予算全体は2008年に大きく減少していますが、2011年以降増加傾向にあります。維持管理費も2013年以降増加傾向にあります。

業績推移

売上と利益

以下のグラフは売上と営業利益率、営業利益、純利益の推移です。

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売上、利益ともに大きく増加しています。2021-1期の営業利益率は14.7%あり高いです。

セグメント別の売上と利益

以下はセグメント別の売上構成および増加量です。

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道路事業の売上が増加しています。他は横ばい。



以下はセグメント別の利益構成および増加量です。

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道路事業の利益が増加しています。他は横ばい。



したがって、同社の売上と利益の成長は道路事業がけん引しているといえます。2015年に橋梁設計や保全を行っている会社を買収しており、特に道路の修繕が伸びているのではないかと思っているのですが開示がなく不明です。

資産

以下のグラフは総資産と自己資本比率の推移です。

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総資産は増加しています。2021-3期の自己資本比率は83%と高い水準です。


以下のグラフは資産の内訳推移です。

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現金と有形固定資産が増えています。


以下のグラフは有報の設備の状況から作成した同社の2021-3期の主な設備の簿価内訳です。

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道路事業と不動産事業の資産が有形固定資産のうちの大半を占めていることがわかります。



以下のグラフは負債の内訳推移です。

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大半が自己資本であり、自己資本が積みあがっています。有利子負債はほとんどありません。


以下のグラフは自己資本の内訳推移です。

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利益剰余金の増加によって自己資本が積みあがっており健全です。


キャッシュフロー

営業CF

以下のグラフは営業CFの推移です。

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営業CFは成長しています。


投資CF

以下のグラフは投資CFの推移です。

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投資CFはほぼ設備投資です。


以下はセグメント毎の設備投資額および主な投資内容です。

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投資状況をまとめると以下のようになります。

  • 道路事業では作業車に毎年5億円程度、事業用地には必要に応じて10億円程度の投資
  • レジャー事業ではマリーナ関係にやや多額の投資
  • 不動産事業では賃貸用不動産の取得に多額の投資


道路事業で稼いだお金を賃貸用不動産の取得にかなり使っており、同社は不動産事業資産の減損をしたことがあるので、投資が適正であったのかについてはかなり気になるところです。


以下は主な買収の一覧です。

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いずれも道路事業関連の買収です。

財務CF

以下のグラフは財務CFの推移です。

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ほぼすべて株主関連です。


以下は投資CF中の株主に関するCFの内訳です。

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配当と自己株式の取得です。配当は増加傾向にあります。


全体

以下のグラフは各種CFおよび現金同等物と有利子負債の推移です。

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営業CFは成長しています。有利子負債がなく、現金同等物が非常に多いです。かなり儲かっている会社だといえます。

まとめ

スバル興業の2021-1期の売上は275憶円、営業利益は40億円、営業利益率は14.7%でした。売上の平均成長率は2.4%、営業利益の平均成長率は18%でした。

道路の維持管理に関する公共投資が増加するのに伴って、大きく売上と利益を伸ばしています。現金同等物は詰みあがっており、有利子負債もなく、非常に儲かっているといえます。道路の維持管理業務は公共投資の影響を強く受けるため、国の動向に注意が必要ですが、国は予防措置によって道路の長寿命化を図ろうとしているため、維持管理費が減少することは考えにくいです。

同社のIRを読んだ限り、競争優位性があるか否かはわかりませんでした。今後の成長は公共投資の動向次第といったところでしょうか。


今回はここまでです。

あと付け

これは後で思いついたことを書いているだけです。


同社がなぜ成長できているかについてあまり深堀出来ていないため、投資できそうな会社なのか否かはよくわかりませんでした。まず、成長している業務がわからないです。

  1. 掃除、巡回、除雪、巡回に紐づく修繕などの日常業務
  2. 大規模修繕、更新などの一時的な業務

1が伸びているのであれば、可能性はある。道路の日常業務は儲からない業務のようであまり入札がないという情報があり、ここが伸びていて競争優位性の源泉となるような生産性向上をはかっているのだとすれば、道路維持管理費が増えていかなくなり競争が激しくなってもやっていけるのではないかという期待がある。

2が伸びているのであれば期待できないように思える。大規模修繕や更新は予測によれば2030年ごろまでは増えるが、それ以降は横ばいとなっている。したがって、今のように良い状況というのは維持できても2030年、それ以降は難しいのではないかと思える。大手のショーボンドホールディングスのように修繕方法や素材への研究やノウハウの蓄積、顧客と連携した開発体制が同社にはおそらくないので、競争になったらたぶん負ける。



成長のスタイルもよくわからない。

  1. エリア拡大型
  2. エリア深堀型

2なら成長には限りがあるように思える。1はまだまだいけそうだけど、これまでの同社の成長はどちらなのか。他社の守備範囲を犯して成長してきたという実績があるなら、これからもと期待できるが、自分の守備範囲を深堀してきただけならそんなに長く成長できないよねって思ってしまう。



整理すると

  1. 掃除、巡回、除雪、巡回に紐づく修繕などの日常業務が伸びて成長しているなら期待できる
    1. この分野で競争力をもたらす何かがあるのか
    2. エリア拡大型の成長が可能なのか
  2. 大規模修繕、更新などの一時的な業務が伸びているなら、おそらく競争優位性はないのであまり期待できない(少なくともIR資料からそれを期待できない)


自分はスバル興業の実態についてよくわかっていないのでIR資料を読んで考えていっているだけなんだけど、投資ができるとすれば1-1を満たす場合かなと思っています。もし、だれかスバル興業の実態に詳しい人がいて実は2で競争優位性を持っているとかなら、それはそれでありなんだけども。