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1414 ショーボンドホールディングス 調査詳細

本記事はとても長いため、ショーボンドホールディングスにあまり興味がない方は要約ページをご覧になることをお勧めしています。


以下が調査結果詳細です。

事業内容

概要

ショーボンドホールディングスは橋や道路などインフラの補修補強を主な事業としています。ショーボンドという名称は同社の前身である昭和工業株式会社が製造していたエポキシ樹脂系接着剤「ショーボンド」が由来のようです。


同社の事業セグメントは「国内建設」「その他」の2つに分類されており、それぞれ以下の表の内容です。

セグメント 事業内容
国内建設 橋梁やトンネル等の公共構造物の補修・補強工事及び製品販売。主にショーボンド建設および化工建設各社が実施
その他 工事材料の販売、海外建設事業。ショーボンドマテリアルが同社が使用する工事材料の一部を製造、また、工事材料の外販やメカニカル継手の製造販売を行う。SHO-BOND&MITインフラメンテナンスが国内外への工事材料の販売。ショーボンド(ホンコン)LTD.及びCPACSB&M Lifetime Solution Co.,Ltd.が海外建設を実施

有価証券報告書より表を作成



以下は2021-6期のセグメント別の売上および利益構成です。

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有価証券報告書よりグラフを作成


国内建設事業が売上・利益の大半を稼いでいます。

事業の特徴と需要

同社の事業はインフラ構造物の補修補強に特化しています。工種としては支承取替や耐震補強、塗装塗替え等が多いようです(2019年3月12日公開の社長インタビューより、以下ではこれを単に社長インタビューと表記)。顧客は主に国土交通省、地方自治体、高速道路各社です。顧客が公共であるため国の方針に大きな影響を受けます。


以下は最新決算期の受注比率です。

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2021-3期決算説明会資料よりグラフを作成



国は老朽化が進むインフラを維持するために予防保全に力を入れる方針であり、補修補強の需要は増加するはずです。しかし、需要の増加が誰の目に見ても明らかであり、競争の激化が懸念されます。


国の試算によると社会資本の維持管理・更新費は2035年ごろまで増加し続け、その後減少に転じます。道路だけで2019年から2048年の30年間に約70兆円もの費用がかかり(国土交通省の試算結果より)、年間では2兆円程度となっています。これには高速道路は含まれておらず、高速道路は同期間に19.4兆円程度必要だと試算されています。


以下はNEXCO西日本が管理する高速道路資産の経年数です。

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NEXCO 西日本 インフラ長寿命化計画(行動計画)(令和3年度~令和7年度) p7 より引用


経過50年を過ぎるような道路資産が2020年~2050年にかけて急速に増加していることがわかります。NEXCO西日本以外の道路資産も同様であるなら、今後高速道路の老朽化が進んでいくことは明らかです。


また、道路を含めた国土交通省所管12分野の30年間の維持管理・更新費の合計は176兆円~194兆円程度と試算されており、多大なインフラ投資が見込まれています。


上記より、公共構造物の維持管理・更新というのは多大な費用が長期間かかる分野だとわかります。同社の最新決算期の売上は800億円程度であり、上記のインフラ投資のどの程度が補修・補強に対するものかはわかりませんが、同社の成長余地は十分あるといえます。



以下は同社作成の事業環境に関する資料です。

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中期経営計画 p11より引用
 

  • 高速道路会社、国土交通省には今後10~15年間に大きな修繕需要がある
  • 地方自治体は高速道路会社、国土交通省よりも更に長い期間、絶対額の大きな需要がある

と同社が見込んでいるとわかります。


つまり、超長期で考えると地方自治体の修繕需要が重要だということです。近年同社は地方の体制を強化する動きを見せていますが(社長インタビューより)、これが背景にあると思われます。

  • ショーボンド建設から化工建設への人員配置の変更
  • M&A
  • 協力会社やジョイントベンチャー相手などパートナーづくり

 

事業の強み

同社の強みはインフラの補修・補強に特化しており、ノウハウの蓄積があり、施工の熟練度が高いということです。また、地方自治体所管の橋梁保全で困った時、ショーボンド建設に聞くという「風習」が過去にあったくらいなので(社長インタビューより)、地方自治体や地方の建設会社との信頼関係があるということも強みでしょう。


具体的には他社と比較して

  • 工事の手戻りが少なく、生産性が高い
  • 納期の順守・短縮が可能
  • 補修・補強用資材の大口顧客であり、価格交渉によって材料コストを低減できる
  • 地方自治体や他の建設会社との関係性から受注活動や需要察知の面で有利

といった強みがあります。


かつては、自社製造の材料を用いて多くの工事を行っており、材料原価圧縮が可能というのが強みでした。しかし、現時点では主要工種が変化しており、自社製造の材料を用いた工事は全体の3割程度とのことです(社長インタビューより)。


また、同社は大学などの研究機関との共同研究や、顧客からフィードバックを受けて新材料・工法を開発する体制を有しており、顧客のニーズを満たす材料・工法のノウハウを蓄積することができています。これも同社の強みの一つです。さらに同社は補修工学研究所の隣地に「つくば研修センター」を開設し(2021年10月完成)、従業員および協力会社作業員向けに教育をおこない、施工熟練度の強化にも取り組んでいます。

競合について

競合として考えられるのは

  • 大手ゼネコン・橋梁ファブ
  • 地方の建設会社

です。


大手ゼネコン・橋梁ファブとは「国土交通省や高速道路各社の大規模で難易度の高い工事」で競合し、地方の建設会社とは「地方自治体の小規模で難易度の低い工事」で競合すると考えています。

地方の建設会社が大規模で難易度の高い工事を請けることは難しいし、大手ゼネコン・橋梁ファブが難易度の低い小規模な工事を請ける旨味がないからです。


大手ゼネコンや橋梁ファブは補修補強に関して専業ではありませんが技術を有しているはずで、ショーボンドホールディングスの競合になりえます。しかし、補修補強工事のほうが新設・更新工事よりも価格が安く受注の旨味が比較的小さいため、新設・更新工事が十分あるうちは大手ゼネコンや橋梁ファブが補修補強工事の受注に積極的になるとは考えにくいです。また、高速道路リニューアルプロジェクトのようにジョイントベンチャーを作ってショーボンドホールディングスと分担して工事することも十分あり得ます。

したがって、大手ゼネコンや橋梁ファブとの競争が激しくなるのは新設・更新工事が少なくなり、補修補強工事を受注せざるを得なくなったときでしょう。例えば、高速道路のリニューアルプロジェクトや国交省管轄の大規模なインフラ更新工事が進捗しきってしまうと競争が激しくなるでしょう。


地方の建設会社についてですが、地方自治体の管轄するインフラの工事難度は比較的低いようなので(前述した資料によると)やはり競合になりえます。しかし、地方の建設会社は大手ゼネコンや橋梁ファブと異なり十分なノウハウや体制を有していない会社もあるはずで、前述した「慣習」のようにショーボンドホールディングスのノウハウが必要とされることもあるでしょう。したがって地方の建設会社は単なる競合ではなく、同社と協力関係になる余地が大きいと考えています。

業績推移

売上と利益

以下のグラフは売上と営業利益率、営業利益、純利益の推移です。

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売上と利益は増加しています。2021-6期の営業利益率は19.6%あり高いです。インフラ維持工事の需要は大きく、売上と利益を増やす余地はまだあります。

セグメント別の売上と利益

以下はセグメント別の売上と利益の構成です。

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国内建設事業の売上と利益が増加しています。



以下は顧客別の受注高です。

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高速道路各社の受注が多いことがわかります。高速道路の工事は難易度が高く、規模が大きいため、同社にとっては利益を出しやすい案件が多いと考えられます。

資産

以下のグラフは総資産と自己資本比率の推移です。

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総資産は増加しています。自己資本比率も上昇傾向にあり、2021-6期の自己資本比率は83%と高い水準です。


以下のグラフは資産の内訳推移です。

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売掛金が近年大きく増加しています。顧客は公共であるため回収について不安は小さいですが、これだけ増えるとキャッシュフローに悪影響があります。また、有形固定資産はそれほど多くないですね。詳細は不明ですが、事務所や研究所・研修センターが主なのかなと思っています。



以下のグラフは負債の内訳推移です。

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大半が自己資本であり、自己資本が積みあがっています。有利子負債はありません。


以下のグラフは自己資本の内訳推移です。

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利益剰余金の増加によって自己資本が積みあがっており健全です。


キャッシュフロー

営業CF

以下のグラフは営業CFの推移です。

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売掛金の増加によって営業CFは増えていません。
回収できないということはないでしょうが、念のため今後の売掛金の増加には注意したほうがいいでしょう。

投資CF

以下のグラフは投資CFの推移です。

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本業には関係が薄そうな投資有価証券等の売買が非常に多いです。


以下のグラフは投資CFから設備等に関連するCFを抜き出したものです。

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以下の表は有報の設備の状況から投資内容をまとめたものです。

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有価証券報告書より表を作成


その他事業にはほとんど投資をしていません。国内建設事業への投資のうち、主なものは

  1. 事業所の建設および改修
  2. 研究設備、研修センターなどノウハウ蓄積・教育

に対するものとなっています。

特に近年では2に対するものが増えているようにみえます。


財務CF

以下のグラフは財務CFの推移です。

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ほぼすべて株主関連です。


以下は投資CF中の株主に関するCFの内訳です。

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ほぼ配当と自己株式の取得です。配当は増加傾向にあります。


全体

以下のグラフは各種CFおよび現金同等物と有利子負債の推移です。

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営業CFはプラスですが横ばいです。フリーキャッシュフローは原則プラスで稼いだお金の範囲内で投資を行っています。有利子負債はなく、手堅いです。そこまで大きな資金需要がないため有利子負債を活用する必要がないのでしょう。

投下資本と投下資本利益率

まだ荒いところがあるのですが、投下資本と投下資本利益率を算出しました。実効税率は40%で固定しています。


以下のグラフは投下資本の推移です。

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以下のグラフは投下資本利益率の推移です。

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投下資本利益率が8%~10%あり、そこそこあるのかなと思っています。投下資本利益率の基準値がいまいちわからないのですが、いくつか算出してみると5%以下とかの会社が結構あるので8%を超えているのは優秀な方ではないかと思っています。

まとめ

ショーボンドホールディングスの2021-6期の売上は801憶円、営業利益は157億円、営業利益率は19.6%でした。13年間の平均売上成長率は5.2%、平均営業利益成長率は13.8%でした。

高速道路各社はリニューアルプロジェクトの真っ最中であり、大規模で難易度の高い補修補強案件が多くあり、足元の状況は極めて良いと推察されます。国はインフラの維持管理のため予防保全に力を入れる方針であり、しばらくこの状況は続くでしょう。しかし、国土交通省の発表資料および同社の需要予測資料によれば2035年以降は高速道路各社や国土交通省所管の大規模で難易度の高い案件は減少するはずなので、それ以降の事業環境は今よりも悪くなるはずです。つまり、採算性の高い案件の減少と競争の激化によって今のような高い営業利益率は恐らく維持できなくなると保守的に考えています。逆に今が良すぎるともいえるでしょう。


2035年以降、同社が衰退すると考えているかといえばそれは違います。あくまでも今のような営業利益率20%にせまるような高収益は望めないだろうというだけで、全国の老朽化したインフラは大量に存在するため、同社はそのために必要とされ続けるでしょう。今後のインフラ維持需要に対する同社の立ち位置はよく、末永く事業を継続していけるはずです。


海外事業については何とも言えません。現時点では国内事業に専念している状態であり、海外に力を入れる余裕はないのではないかと思っています。合弁会社を海外に設立しており何もしていないわけではありませんが、業績に影響を与えることは当面ないとみています。


したがって、同社に関しては以下が重要だと考えています。

  • 高速道路各社、国交省の工事案件は予測通り15年間も多量に存在するのか
  • 高難易度、大規模な工事が少なくなっても収益力を維持できるのか
  • 国内の修繕需要が落ち着いてきた際に、海外の需要を取り込めるような事業展開ができるのか


今回はここまでです。